逍遥182 Gen Z運動って何だ? (3)
選挙は風がふいた?
3月5日投票の下院議員選挙はラストリア・スワタントラ党(RSP)の圧勝であった。275議席のうち165の小選挙区で125議席(得票率は44.17%)をとり、比例で57議席(47.84%)の合計182議席である。
私は、投票日の10日前までカトマンズに出張していた。親しいネパールの友人に予想を聞いて回ったのだが、このような結果を言い当てた人はまれであった。一つには私の知人が比較的高年齢の人たちだったといえる。若者の投票性向が読めなかったのだ。もう一つは農村社会の変容であると思われる。私の情報源の一つである農村部出身者の多いタクシー運転手の中には新しい政治家に期待を寄せる人がいた。
RSP圧勝の要因と既成政党(ネパリコングレス:NC、統一共産党:ULM、旧マオイスト:NCP)の敗因を対比してみよう。
RSP 既成政党
有権者の心理 変化への期待 汚職・権力闘争とたらい回し政権への失望
世代構造 都市部の若者 農村部の高齢者
リーダーシップ バレン、ラミチャネ効果 G-Zen抗議活動で失墜した幹部
社会経済状況 経済停滞の責任問う 国内産業育成に成果なし
海外在住者が若者流出を問題化して既成政党を批判
選挙戦術 SNS駆使、分散型ネットワーク
村落組織依存の旧来型
若者の支持を受けたRSPの立候補者の年齢層はどうだろうか。結党時2022年の選挙と比較すると、45歳以下は減っており、46歳以上で増えているのがわかる。全党候補者でみると30歳以下の割合が微減、60歳以上が4.47%も減少しているのに比べると、必ずしも若者を意識した候補者選定ではなさそうである。ちなみに既存政党では、NCが60歳以上の候補者の割合を22%も減らしている。男女比にしてもRSPに目立った変化はない。
政治学者のサンジーブ・フマガインが欧州ポピュリズム研究センターのインタビューで興味深い選挙結果を分析している。Z
Genの不信は政党のみならずメディアや大学等のエスタブリッシュメント全体に向けられていた、しかしこれらの政治的問題(説明責任欠如、統治の不全、政治的・官僚的な癒着等)を提起して最前線に立っていたのは既存主要政党の出身者であり、したがってこの運動は草の根からではなく「上」から沸いた声と理解できると。
RSP党首のラミチャネはこれほどの当選を勝ち取るとは想定していなかったのだろう。選挙後の党大会では多くの新人議員を統率するための規制的な党則を制定した。新人議員が能力、意欲、倫理観を維持して旧政党の負の遺産を超克できるか党首自身が不安であるに違いない。さらに当選し多くの議員はこれまで他の既成政党の党員として活動している。歴史の若い政党を運営する難しさがある。
華々しく登場したバレン首相
まさに満を持しての登場の様子であった。さすがラッパー、カトマンズ市長の実績を誇示することとなった。しかし、首都とはいえ地方自治体と国政の運営は異なる。市長時代の街を清掃する、路上の物売りを一掃する等の小手先の手法は通用しない。手始めに河川敷等の不法居住者を追い払ったが、その先の救済措置がなかった。あまりに乱暴ではないだろうか。
RSPのラビ・ラミチャネ党首は政策スタッフを用いて策定した「100項目の改革アジェンダ(ロードマップ)」を公表した。行政のスリム化、非政治家の統治改革、デジタル国家化、反汚職、経済成長・雇用創出、農業の近代化、教育改革、Gen
Z運動・マイノリティの救済、等々の包摂的な国家再構築プランである。各項目は実行のタイムスケジュールを付した。ネパールの政治ではこれまでにない信じられないスピード感である。
さて、政府はロードマップの100日の評価を発表した。自己採点では87.2%の達成である。民間のメディアや独立機関の評価は30~38%と低い。着手段階を達成とカウントし、オーディナンス(行政命令)発出を成果としているが、諸政策の制度化が遅れていることを辛口評価している。
Petit Rajaに陥る危うさ
ロードマップ諸項目のうちで行政改革に注目している。省庁再編では首相府の権限強化に危うさを感じる。1990年の民主化以降、権力の乱用と政治不安の繰り返しである。ネパールには制度より個人の意思が優先する政治文化がある。
権限の強化は短期的には行政の効率化にプラスとなろう。しかし、今回の省庁再編に伴うポストの削減は官僚人事を掌握する手段として官僚の独立性を弱体化させる。予算と公共事業の最終決定権が首相府に集約されたが、これまで既存政党が繰り返してきた権力の乱用が繰り返されることがないようにしたいものだ。
フマガインは、ネパールの政治は10年にわたってポピュリズムによってつくられてきた、その特徴は「政治の個人化」と議会や政党組織などの制度的メカニズムの周縁化である、この私物化がいくつかの主要な機関を機能不全に陥らせ、民主的な責任の持続性について根本的な疑問を引き起こしている、またこれは世界的な潮流の一部であるといっている。
Gen Zはバレン首相の市長時代の実行力や斬新な新内閣の政策に共感を覚えているのかもしれない。しかしこの世代はプロセスにはあまり関心を示さない。早期に目に見える成果を出す必要があろう。
(2026年9月5日)