2020年5月2日土曜日

逍遥 湯河原・カトマンズ #139 


コロナ禍の中で (1

この季節気温の変化が大きい。10度近く変わる日がある。カトマンズで季節ごとの決まりきった気候に慣れた体にはいささかつらいところがある。

しかしながら、わが町の山々は新緑に燃えて生き生きとしている。木々の緑にびみょうな色彩の濃淡があって、キャンバスに描かれた風である。もう少したつと緑にあまり差がなくなる。今だけの感性である。華やぐ季節ではあるが世界中新型コロナウイルス感染症が広がっている。

ネパールへの渡航がかなわない。プロジェクトも気になるがネパールの都市封鎖の現下では動きようがない。日本はといえば緊急事態宣言が出され、外出も控えざるを得ない。カトマンズのチベッタンクリニックで処方してもらっている血圧を抑える生薬がなくなってしまった。10数年飲み続けておりとても相性がいい。先日気になって血圧を測ってみるとなんと200を超えている。のどの痛みや胃の不調もあるのでかかりつけのクリニックに行った。

血圧、体温の測定と看護師の問診から始まる。その後廊下の一番隅で待つように指示される。私がネパールと行き来をしているのを知っているのでコロナ感染の対応をしたのであろう。医師が廊下で診察をする。2メートル離れての問診である。医師もいつになく重装備だ。次回から風邪の症状がある場合は自分の車の中で待って、医師が車に出向いて診察するという。大中規模の病院から院内感染とみられるクラスターが発生しているのを見れば、個人経営の開業医が自分のところから感染者を出すわけにはいかない。

神奈川県は今まで保健福祉事務所所在地の地域ごとに感染者数を発表していたが、市町村ごとの集計に改めた。それによると神奈川県の場合はほとんど都市部に集中しており、小規模町村では軒並み発生していない。むろん人口23千人のわが湯河原町は老人施設の感染者2人である。医師からはコロナでないといわれたが、無症状感染者が多数いるところから一抹の不安が消えない。

先週末の主要な鉄道駅における人出についての調査がある。緊急事態宣言発出前の週末との比較であるが、大阪梅田駅、東京駅、横浜駅等の第一弾の発出都府県については80%前後の減であった。地方都市は2030%減にとどまっている。感染の広がりによる深刻度あるいは認識度の違いが表れているのだろう。東京でも商店街の人ではかえって多いくらいだという。

わが町は温泉観光地である。鎌倉、江ノ島等の観光地は人出が多く車の渋滞が起こっている。首都圏からの行楽客の多さに県では駐車場を閉鎖した。町の国道の交通情報掲示板には「神奈川に来ないで」との表示がある。地元は他県からの移動に不安を感じている。町の状況はあまり外出していないので詳しくわからないが、国道沿いの大型スーパー店の駐車場にはいつもより地元以外の車が多くみられるという。

数日おきに買い物に行く近所のスーパー店の買い物客もいつものとおりである。地元で感染患者が出れば人の行動は変わるのかもしれないが、今のところ特段の変化はみられない。都知事は混雑する都内のスーパー店の入場人数規制や買い物頻度を減らすよう要請した。もっともの措置と思われる。政府は換気の悪い密閉空間、多数の人が集まる密集場所、間近で会話する密接場面の「三密」の回避を呼び掛けている。これをもじった「集・近・閉」のダジャレも出ている。

先日親しい会社時代の同僚が亡くなったが、高血圧もあって首都圏での葬儀参列を遠慮した。一月前に病院に見舞ったので許してもらう。ネパールのように完璧に都市封鎖をしていないわが国では、国民のウイルスへの正しい認識と善意を期待した抑制策しか取れないというのは何とももどかしい。

2020430日)