2020年5月19日火曜日

逍遥 湯河原・カトマンズ #140


コロナ禍の中で (2

外に出ると夜の闇に隣家のジャスミンの香りがする。大きな木のてっぺんまで蔓が伸びて白い花をいっぱいに咲かせている。カトマンズの夜の路地でも甘い香りを漂わせていることだろう。もっと濃厚な気がする。

わが国ではコロナ感染の広がりを受けて緊急事態宣言が全都道府県に出された。テレビニュースでは毎日個人商店の売り上げ減の窮状と、閉店要請に従わないパチンコ店の様子が繰り返されている。要請に従わない店を公表するとそこに人がどっと集まる。パチンコ愛好家というよりギャンブル依存症だという。80万人いるようだ。

48日、武漢で123日以来の都市封鎖が解除された。午前0時封鎖解除を記念して長江沿いの高層建築が一斉にライトアップされ花火が打ち上げられた。ピーク時には一日2000人近くの感染者が出た。厳しく外出が制限された。人々の恐怖と不満は最高潮に達していたのだろう。我が国の緩い規制下でもストレスを感じているくらいなので、武漢1,100万人の気持ちもわからないではない。

だが待てよ。現下の感染症は武漢ウイルスによるものとされているように、発生はかの地ではないのだろうか。我が国、欧米諸国をはじめ全世界でいまだ感染者が増え続けている窮状にある。中国人は儒教の「五常:仁・義・礼・智・信」の五つの徳目を重んじていることが知られている。このうち「仁」とは思いやりの心である。自分たちの喜びもこの時期控えめにするのがその心であろう。

これに加えて中国政府のプロパガンダが在京大使の新聞への寄稿(425日付読売新聞)という形をとってで出された。前段は、中国での感染拡大を外部への流出を防ぐため全力を尽くしたとし、「世界各国が感染に立ち向かうための貴重な時間を稼いだ」と主張する。中段では、「WHOや関係諸国と予防・抑制と治療の経験を共有した」としている。しかしこの間大量の中国人感染者が各国を旅行してウイルスをまき散らしていたのは紛れもない事実である。

後段では、中国が感染拡大した国に援助の手を差し伸べているとして、「中国に対するデマや偏見は感染拡大の防止に資するどころか、世界の感染予防・抑制の妨げになる」と述べる。そして中国での感染拡大期の日本の支援に感謝しつつ、その後の日本への支援をちゃっかり述べているのである。日本国民がこの手の話に騙されると思っているのだろうか。中国にシンパシーを持つ政治家や財界人ばかりではないと明言しておこう。他の国でも同様のことを試みているのに違いない。

問題はかの国ばかりではない。34日の参院予算委員会のことである。野党第一党の幹事長の発言は「総理、いやでしょうが桜を見る会について質問します。時間が余れば、コロナ対策もやります」。1月下旬に感染者が出て33日には330人を超えている。ついでの質疑でよしとする問題ではない。中国大使の言は褒められたものではないが国益を死守しようとしている。この日本の政治家は何を守ろうとしているのだろうか。児戯とすら思える。この政党の支持率は4月の各種世論調査によると軒並み4%前後下落して3.75%である。国民はバカではない。

もう一人困った人がいる。「森友」問題の新たな展開に首相の辞任を求めた元総理である。国難ともいえる局面にリーダーを挿げ替えることが国益といえるであろうか。優先順位が政治のリアリティではなかろうか。品格すら疑いたくなる。

医療関係者の家族への嫌がらせのニュースがある。感染のリスクも顧みず懸命に現場で踏ん張っている人たちをおもんぱかることがないのだろうか。荷物を届けに来た宅配便の配達員の顔に消毒液のスプレーをかけた人がいるという。自粛ポリスと揶揄される御仁は「正義の味方ヅラ」して鬱憤のはけ口としている。誰しもが外出自粛でストレスが溜まっていることは確かである。強制措置のとられていない日本で国民はよく自制していると思う。危難の時ほど人として矜持を示すべきではなかろうか。これまで幾多の自然災害にも耐えて復興してきたのだから。

202054日)