2020年9月18日金曜日

逍遥 湯河原・カトマンズ #149

 

無信不立(信なくば立たず)

 

9月も十日過ぎるとだいぶ涼しくなった。寝室の窓を開けて寝ると明け方寒さを感じるほどである。セミの声が秋の虫の音にとって代わる。

 

台風10号はこれまでにない超大型であるとの予報が出され、通り道の南西諸島、九州の人々は早めの避難に怠りなかった。直前の9号が海水を撹拌して海水温が下がったため、10号は接近前にいくらか弱くなって想定より被害が少なかった。予告警報以下の被害であったことを非難する声が例によってSNS上にあふれる。匿名性をいいことに言いたい放題である。

 

16日に新内閣が発足した。菅首相は「役所の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打倒し、規制改革を進める」との持論を強調している。新型コロナウイルス感染が拡大していく中で指揮をとってきた政治家の霞が関の行政執行の「めづまり」と対峙してきた苦労が外目にもよくわかる。

 

この国のエリートたちは平時対応能力には秀でているが、非常時にはこの程度なであろう。考えてみれば現下の事態は太平洋戦争以来の非常事態なのかもしれない。軍事組織(自衛隊)は非常時を想定したシミュレーションを欠かさないのであろうが、役所にとっては地域に限定された自然災害対策は別としても想定外の事態に違いない。私も戦後生まれである。若いころの高度成長時代を含めてこれまで平穏な時代を生きてきたのだと思う。時世の変化において「ゆでガエル」に気が付かないだけかもしれない。

 

もう一つの目玉政策が「デジタル化で成長戦略促進」である。日本のデジタル化投資はGDPの3%程度で先進国の中で低いわけではないそうである。コロナで明らかになった一つに、地域の保健所から上部機関への毎日の報告書がなんとファックス通信であった。受け取り手はこれをデータ化するのに手入力である。これにはアナログ世代の私も唖然とした。もっとも民間企業でテレワークでありながら、会社にハンコをつきに行かなければ済まない笑い話もあった。

 

10万円の特別給付金の処理もしかりである。2か月以上かかった自治体もある。田舎町の役所のデジタル化を信用していない私は郵送申告した。翌週に振り込まれた。マイナンバーカードなどくその役にも立たない。導入時反対意見の一つであったプライバシー侵害など心配することがないほど「身分証明書」化している。税務署だけはしっかりと捕捉しているが。

 

では、首都圏やインド国境主要都市で拡大している感染の対処でネパール政府は機能しているであろうか?新聞報道でみる限り疑わしい。共産党政権は党内人事に忙しい。カトマンズ市長は感染治癒後どこにいるかわからないという。今日から国内航空便や長距離バスの運行を再開するという。ダサイン大祭に向けて国民の期待に配慮するのはわからないでもない。昨日の首都圏3郡の感染者数は737人、カトマンズの直近1週間では3,127人である。カトマンズへのヒト、モノの流れの主要経路であるパルサ、マクワンプール、チトワンあるいはルパンデヒ、ナワルプール各郡の感染増加も衰えていいない。先のマチェンドラ祭の政府と民衆の対立があったが、事態を冷静に見て対処してもらいたいものである。

 

ネパールのデジタル化はいかがであろうか。パスポートはよし、空港のイミグレーションも一部スマート化した。財務省の歳入局は納税実績を電子化開示している。運転免許証を電子化したがどのように使っているのだろうか。受け取ったのは申請してから1年半たってからである。ありがたいのはスマホの普及である。FBのメッセンジャーで山奥にいるプロジェクトの協力者とも連絡が取れる。インタ-ネット通信網は中間山地でも郡庁所在地までは何とかなる。そういう私はガラケーを使っている。

 

政治家が好んで用いる『無信不立』。子貢が、孔子に政治の要点についてたずねた。孔子 「軍備を十分にし、食料を十分にし、人民に信義を守らせるようにすること、これが政治の要点である」。政治を志したことはないが、私の好きな箴言である。『至誠無息(至誠やむことなし)』とともに。己にないものを求めている。

 

2020917日)


2020年9月4日金曜日

逍遥 湯河原・カトマンズ #148

 

コロナ禍の中で (9)

 

8月に入って3週間以上も雨がなかった。カキの実は小さいまま熟れてしまい、また青いまま落ちる。暑さ寒さに強いツワブキの葉もげんなりしている。一方で6-7月の長雨で野菜が不出来でレタスやキャベツは値段が高騰する。天候はままならないものだ。

 

やっとの雨に一時の朝の涼しい風を感じる。キンカンの花がかんきつ香をとどける。ムラサキシキブの小さな実が色づき始めた。萩の花も咲く。コケも生気を取り戻したようだ。だがこの暑さは9月中旬まで続くという。

 

先日ズームを介して実施された在ネ大使館主催のビジネスセミナーの冒頭西郷大使のご挨拶があった。カトマンズ首都圏で新型コロナウイルス感染が急増している折ご多忙と思われるが、お元気そうで安堵した。首都圏の感染者数はこの一か月で倍増して4万人に迫る勢いである。

 

621日にロックダウンを緩和してから中部、東部テライの都市ビルガンジ、ジャナクプール、ビラトナガール等で感染者がみるみるうちに増えた。工業地帯にインド人労働者数千人が流入したという。インドで感染者が100万人を超えたのが716日であった。それから40日もたたないうちに300万人になった。830日には一日で78,761人を記録している。

 

インドの状況を見れば安易に緩和するべきではなかった。カトマンズへのヒトとモノの流れはインドのビハール州からビルガンジ、ヘタウダ、バラトプール経由の大動脈である。これらの町で時を経ずして増加してきた。手をこまねいているうちに手が付けられなくなる。首都圏市長会を代表するカトマンズ市長(本人も感染)は首都圏に5千人収容の隔離施設を建設するという。ネパールの政治家に往々にして見られるその場限りの軽い発言でなければいいが。

 

規制緩和は経済への影響を忖度したのであろう。38日から72日までにインドへの出稼ぎから帰国した人が50万人に上る。また中東産油国から現在も続々帰国しているが、8月中旬までに帰国した人は51,441人である。多くが農村部に帰っているが新たな収入源があろうはずがない。

 

労働省は28日出稼ぎ先国のリエントリービザや就労許可証が有効な人には9月以降の国際線再開後に渡航を認めると発表した。そもそも仕事がないので帰ってきたわけなのに対象国で労働需要が復活したというのだろうか。30日には国内線と長距離バスの運航禁止の916日までの延長を命じた。

 

私たちはこんな政府の定見のなさにイライラするのであるが、ネパールの人たちは「あっそう、いつものこと」とあまり気にしない。しかしコロナ禍と外出規制で不満が爆発しそうであるに違いない。在留邦人の皆さんもストレスが溜まっていると思われる。無理に自分を抑制せずに過ごしたらいかがだろうか。それには友人との情報交換を密にすることが有効であろう。カトマンズは口コミ社会で多種雑多な情報が飛び交うのが常である。貪欲に情報収集に努め、かつ情報に翻弄されないようにすることが肝要と思われる。家時間が長くなるので普段手にしなかった本を読むのもいいと思う。そして何より「こうすべき」というような硬直した考えを捨て、また他人に強要しない柔らか頭を持つことをお勧めしたい。心にゆとりがなくなったときはメンタルヘルスの専門家に相談するのもいいのではないだろうか。

 

ロルパ郡のバム・クマリから村のティージ祭(女子の祭り)の集まりの写真が送られてきた。マガール族の村である。幸いロルパは感染者数が少ないので皆さん楽しそうに踊っている。一人としてマスクをしていない。新聞で見るカトマンズ市内では多くの人がマスクをしているのだが、村では無頓着のようである。早速FBメッセンジャーで注意喚起したが、村でマスクは手に入るのだろうか。

 

2020830日)