2022年6月30日木曜日

逍遥  またかの航空機事故 #162

 

またかの航空機事故

 

関東地方の梅雨入りが発表された。
翌日から梅雨寒ともいえる低温で長袖を着込んだ。
庭のクチナシは今年は花が多く甘い香りも強いようだ。
サルビアも毎年同じ梅の根元で濃い紫の花を咲かせている。

 

もう10年も前になるが、宮原巍さんのヒマラヤ観光開発トレッキンググループのガイドを依頼されてカトマンズ発ルクラ便のイエティ航空に乗った。

この航路はネパールヒマラヤの景観を心行くまで楽しむことができる。
人気のエベレスト方面のトレッキングの玄関口空港であるが、
谷間に伸びるわずかな緩斜面を切り開いた世界でも有数の離着陸が難しい空港として知られている。
天候の安定している
11時ごろまでには離着陸しなくてはならない。

シーズンにはカトマンズ間に30往復便があるという。外国人乗客が多いためドル建てでネパール人の数倍高い航空賃が航空会社にとってはまさにドル箱路線なのである。

 

この日のフライトはパプルー上空までは快適であった。
その先のドゥードゥコシ川手前のタキシンド峠では川から吹き上げる猛烈な上昇気流で小型の双発機トゥインオッターは胆が冷えるほど揺れる。
谷筋に入ると一面の雲に覆われている。

これでは着陸は無理だろう、カトマンズに引き返すに違いないと、
半ば祈るように期待した。
あにはからんや機は上流に向かって進むと、雲海の裂け目から雲の下に出る。
滑走路の侵入方向は下流方向に開いているので、上流方向からは左に急旋回しなければならない。無事着陸して心配は杞憂に終わったが、かつての事故の残骸が滑走路わきに残置されているのを知っている身としては心穏やかではなかった。

 

「まさかの」ではない、「またかの」航空機事故である。

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29日にポカラ発ジョムソン行きのタラエアーのトゥインオッター機が
8,000m峰アンナプルナとダウラギリの間を流れるカリガンダキ河の谷間の標高4,000mの岩壁に墜落した。

この路線もアンナプルナ連山一周トレッキングやヒンズー教、仏教の聖地であるムクチナート寺院へのアクセスとして外国人に人気のルートである。この事故でも犠牲となった乗客乗員22人のうちインド人4人、ドイツ人2人がいる。

 

この路線は20分のフライトだが、ジョムソンに近い三分の一の上流部区間は午前10時を過ぎると毎日決まって強風が吹く。
ポカラよりの三分の二は地形が複雑であり天候が急変する危険がある。
30年間で7度目の事故となった。

タラエアーは2016年にもこの路線で乗客乗員23人が死亡する墜落事故を起こしている。Aviation Safety Networkによると副操縦士が操縦してゴラパニ峠を越えたあたりで対地接近警報装置(GPWS)が鳴ったが操縦士は警報を無視して雲の中で高度を下げるよう指示をし、再び警報が鳴ったところで操縦を代わって上昇したが斜面に墜落したとしている。

今回の事故の調査結果は出ていないが、新聞報道によると
この路線を長年経験した退役パイロットはレーダーの航跡から同様のCFIT事故を推測している。カリガンダキの狭い谷間で雲を避けようとして急旋回したところGPWSの警報を聞いて急上昇した結果急峻な斜面に激突したものであるという。

 

CFITはパイロットの技量や経験にかかわらず起きるものであり、その原因の多くは疲労や睡眠不足によるパイロットの注意力の低下や方向感覚の喪失によるもので、共通する状況として雲天や濃霧による視界不良、山や給料などの隆起した地形への衝突をあげ、現在の航空機事故の死者の約4割がこれに起因するとしている。(WIKIPEDIA

 

ネパールの航空機事故はそのほとんどが小型機によるもので、2000年から2009年までの10年間に6件の事故があったが、2010年から2020年までの10年間で13件と倍増している。中間山地の多くの空港は1960年代から70年代初めに建設されている。道路建設に先駆けて航空路を開発したものである。地方の道路が多く建設された現在では多くの定期航路が閉鎖されたが、一部の地域では観光開発に伴って外国からの旅行客が増加し、地場産業振興の恵みを受ける人たちが利用するようになった。

 

国際民間航空機関(ICAO)の2017年の各国の航空事業にかかる監査報告書は、法制度、運営組織、免許制度、運営、整備、事故調査、ナビゲーションシステム、空港施設の8項目で評価している。法制度、運営、整備は世界標準より上位に評価されている。問題は運営組織と事故調査で、前者は100点満点の50、後者は18.68と悲惨な水準にある。この辺りが今のネパールの行政および産業全般に共通する問題点のように思える。企業経営者にビジネスフレームワークのPDCAPlan:計画、Do:実行・実績、Check:評価・気づき、Action:改善策)について話す機会があった。CAを企業活動に考慮すべしと助言したところ不評をかった。ネパールの企業経営者の多くは独裁者である。CAも沽券にかかわるか?どこかの国の「ゼロコロナ政策」に似ていなくもない。

 

 

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