2022年11月10日木曜日

逍遥  久々のカトマンズの空気 (2) #164

 

久々のカトマンズの空気(2

 

ダサイン大祭の後半は雨にたたられた。9日目のナワミの早朝にハヌマンドカで軍による水牛やヤギの供犠を見る。着飾って供物をいただきドゥルガ寺院に詣でる女性の列に「やはりカトマンズ盆地はネワール族の地だ」との思いがしてくる。キチャポカリのバザールを通り、新しく建てられた塔のわきに地震で倒壊して基部のみのビムセン塔が残されているのを見ると、カトマンズの歴史的建造物の倒壊もさりながら、山地部の村落でなすすべもなく困窮していた人たちに思いをはせる。

 

新聞報道によると、今年のダサイン商戦は低調だという。目抜き通りの商店街を歩いてもあまり熱気が伝わってこない。4月に発した外貨準備高減少による輸入規制とか金融引き締めによる購買意欲の減退なのだろうか。この時期が商機の高額商品の品薄もあるのだろう。久しぶりのカトマンズでは街の人々の気持ちの持ちようまでうかがい知ることはできない。

 

そんな悩ましい気持ちを抱きつつも2年半の不在の後の変化には驚くものがある。まずネパールの消費文化の象徴ともいえるバトバティーニ・スーパーマーケットの本店で驚いた。駐車場が拡張されている。この地価が天井知らずに高騰しているカトマンズで駐車場に投資するのか。立体駐車場も建設されている。車社会になりつつある今なら郊外店を拡充した方がよさそうな気がするのだが。エレベーターも新設されている。余談になるが、50年前にはネパールで唯一のエレベーターがソルティホテルにあった。

 

商品にも新鮮な刺激がある。これまた50年前からあるロングセラー商品〈ククリラム〉酒。栓を開ける際にナイフが必要なくなった驚きである。ひねれば簡単に開く。手のけがも心配する必要がない。ホワイトラムの新商品もある。なんでこんな簡単なことを今までしなかったのだろうか。古手のネパール企業にしたら上出来というべきか。対して、来るとき乗ってきたネパール航空のサービスは30年この方少しの「カイゼン」もない。

 

またまた飲み助の話で恐縮だが、ビールがおいしくなっている。飲み味にバラエティが出てきた。数年前にシェルパビールが登場したときも衝撃的であったが、この度は選択の広がりが出てきた。酒を飲まないマルワリの経営努力か。はたまたネパール商人の勇気ある参戦か。ネパールのスタービールとインドのゴールデンイーグルのぼやけた風味に悩まされていた時代は遠い昔話になった。

 

ポテトチップスのパッケージがしゃれている。輸入物かと思ったがなんと国産である。品質ではインド製にかなわないが、ここにも進歩の跡が見られる。飲食店のインテリアがおしゃれになった。若い人が海外に出て見聞した成果であろう。ポカラでもレイクサイドの通りは変わりようがないが、一足枝道に入ると素敵な外観のホテルやレストランが増えている。はやりのパブに入ると広い店が地元の人たちでむせ返っている。料金の高いのに驚く。

 

カトマンズの中の下程度のレストタンで昼食をとった。カレーとナンで500ルピーであった。タカリー料理店でダルバートを注文すれば800ルピーだ。おいしかったので不平はないが、やはり高値感は残る。果物屋の店先は輸入果物が幅を利かせている。果物の9月の前年同期比の値上がり率は17.29%とラストラバンクの発表。全体のインフレ率は8.64%で前年の3.94%の倍以上で74か月ぶりの高騰という。

 

外貨準備高の減少や対外債務の急速な増加から、スリランカの経済破綻の二の舞にはさせじと金融の引き締めを図るが、一度味わった消費の蜜の味は忘れられない。出稼ぎ送金に依存するしか解決策は見当たらない。18世紀にネパールを統一したプリトゥビ・ナラヤン大王がカトマンズ盆地を攻略した動機の一つにチベット・インド交易の利権があったといわれる。さらに交易に経済基盤を限定することなく地場産業振興を奨励した。国土開発の青写真を描ける優秀なブレーンがいたものと思われる。

 

20221030日)