2017年10月13日金曜日

10月13日


《萬鐵五郎展》が葉山の神奈川県立美術館で開催されました。萬は明治末期から大正期にかけて活躍した画家で、当時の前衛であったフォービスムを導入したことで知られています。

私の目当ては重要文化財に指定されている『裸体美人』(1912年)でした。力強い輪郭やはっきりした顔立ち、コントラストの強い色使いは東京美術学校の卒業制作にふさわしいものでしたが、当時はあまり評価されなかったようです。

明治維新後、新政府を担う人材を欧米に派遣して政治、社会経済、文化等の導入を試み、短い時間で近代化を成し遂げます。1905年(明治38年)に日本海海戦でロシア艦隊を破り、大韓帝国に統監府を設置し国威発揚に沸く時代でした。

大正期は、大正デモクラシーといわれるように普通選挙運動、社会主義運動、労働運動、女性解放運動などの社会運動が活発となった時代です。第一次世界大戦が勃発して、日本は大戦景気に沸きます。一方で経済大恐慌の時代でもありました。ロシア革命によって社会主義国が誕生しました。関東大震災が発災したのは1923年です。まさに激動の時代でした。

時を経ずして一転して暗い画風になります。会場ではこの時代を『沈潜期』としていました。『雲のある自画像』等の自画像が数多く作成されています。故郷岩手に帰郷して風景画も多く見られます。

1919年には結核療養のため神奈川県に転居します。この頃南画の研究を進めますが、湘南の風土のように明るい洋画を残しています。自身の娘たちを描いた肖像画はいとおしさがにじみ出ていて父親の情が感じられます。展示の最後にこのような絵に巡り合ったことで、鑑賞者として幸せに感じるものがあります。

葉山といえば天皇家の御用邸で有名です。もともと相模湾に面した静かな漁村でしたが、最近ではマリンスポーツの基地としてにぎわっています。美術館は市街地から少し離れた海辺の松林にあります。海を見渡すレストランでくつろげますし、松林の遊歩道も木々のにおいが心を和ませます。
(スガジイ)