2017年10月6日金曜日

10月6日

9月半ばの強い風と雨で玄関先の木犀の満開の花がすべて散ってしまいました。樹下は一面の薄黄色の花でおおわれています。夜中に起きて明るさに驚かされました。この樹は8月中旬にも花を咲かせました。年々花が小さくなって、色も薄くなったような気がします。

春に散る桜花にはかなさを感じますが、秋の寂しさを感じるのは私にとって木犀の花の芳香です。15年も我が家を留守にして、季節の移ろいにも感性がくるってしまった私ですが、この秋にはもう一つの思いがけない自然からのプレゼントがありました。

ある朝起きると、以前にもまして木犀の強い香りが漂っています。庭先の桜の大木の陰にもう一本あったのです。先の花が散った後、数日をおいてかおりをたて始めました。それは先の花より色も濃く香りも強いものです。何かご褒美をいただいたようです。

留守のあいだの荒れ放題の庭に萩が残っていました。もう朽ちてしまったとあきらめていましたが、今年は元気を取り戻して花をつけています。

辻邦生の短編集「花のレクイエム」の9月の花は《マツムシソウ》です。夏の淡い恋の終わりを語ります。『八月も半ばを過ぎると、草原いちめんにまつむし草が淡青い花をひろげた。「もうまつむし草が咲いている。夏も間もなく終わるのね」れいは草原に足を投げ出して坐った。』

この秋の初めには信州の蓼科や霧ケ峰高原にタカネマツムシソウをめでに行こうかと迷いながらも、9月の末に信州と甲斐の境の八ヶ岳連峰を縦走しました。麓の針葉樹の森にはトリカブトの紫の花です。

山稜ではゴゼンタチバナが赤い実を結び、エーデルワイスの仲間のウスユキソウがまだ白く群生しています。森林限界高度ではダケカンバの葉が斜面一面を黄色く彩ります。風が冷たい稜線です。

私は夏の終わりの山を一人静かに歩くことを好みます。残りの花を惜しみながら。

(スガジイ)