2020年7月9日木曜日

逍遥 湯河原・カトマンズ #144 

コロナ禍の中で (6

 

先日隣町の熱海に行った。海岸通りの渚親水公園沿いの歩道にはジャカランダの花が咲いている。熱海市ではこの通りを新しい観光名所にしたようだ。食事をしたレストランは歩道テラスにテーブルを出し地元の食材を使ったイタ飯であった。かつての温泉繁華街で昔風のなんとなくいかがわしさがあった界隈が、すっかりコンセプトを変えて生まれ変わった。

 

翌日からわが町では雨と風が断続的に台風並みの強さで、庭の満開のアガパンサスがすっかり散ってしまい華やかさが失せる。ムラサキシキブは薄桃色の細かい花を嵐に耐えてけなげに咲かせている。

 

74日に梅雨前線が活発化して九州球磨川流域に災害をもたらした。流域の午後3時まで24時間の降雨量は400㎜を越した。カトマンズの一番降雨量の多い月が7月で300㎜である。その後連日九州に水害を、8日は岐阜県と長野県に大雨災害を発生させた。

 

ネパールのモンスーンはどうであろうか。新型コロナ感染が拡大する中、雨による災害と村の衛生環境が懸念される。モンスーンの趨勢は主産業である農業生産高を左右する。今年は何十年かの頻度のサバクトビバッタの襲来もある。隣国インドの感染者は70万人を超えて勢いが衰えない。インドの専門家によるとピークは11月頃という。

 

インドではこの窮状に加えて、カシミールの国境の係争地で55日に中国軍とにらみ合いが始まり、615日両軍が衝突してインド軍兵士20人が死亡した。インドではこの事態を、中国が自国の景気の後退と国内の政治問題から民衆の眼をそらすためであり、インド洋での海軍勢力の劣勢を北の国境で帳消しにしようとしているとの見方がある。(Dr. Subash Kapila, South Asia Analysis Group

 

ネパールも極西部でインドとの国境問題が発生している。いつの間にか地図が塗り替えられていたのである。最近憲法を改正してこの問題に対処したが、インドとは交渉がなされていないようである。中部国境のガンダキ堰修復の問題にも背を向けている。インド嫌いの首相をインド側はアンチインドの超ナショナリストと呼ぶ向きがある。インド政府のイライラが伝わってくる。

 

しかしインドにばかり気を取られて北の国境を無視するわけにはいかない事態になってきたようだ。ネパリコングレスは624日に議会に中国の国境侵犯事案注意喚起を上程した。ドラカ、フムラ、シンドゥパルチョウク、サンクワサバ郡で64ヘクタールのネパール領に中国が道路建設等で侵略しているというものである。

 

このような国難ともいえる時期に恒例のネパール共産党内の権力抗争である。そこに駐ネパール中国大使の動向が報道されている。これに不快感を表明する向きがあるのは当然のこととはいえ、能動的解決意思があるのか問いたくなる。新型コロナのPCR試験キットの質の問題といい国境侵犯問題といいまさに国家主権が問われているのではなかろうか。大国に挟まれた〈自然薯芋〉などといつまで甘えたことを言っていても始まらないのではないだろうか。

 

ネパールのことばかり言ってはいられない。我が国をめぐる問題も同様である。尖閣諸島では領海侵犯が常態化している。宮古海峡には空母部隊、潜水艦、戦闘機が行き来している。香港の自治権は踏みにじられ、台湾には軍事圧力が増している。〈独善的平和主義〉の我が国の立ち位置が怪しくなっている。

 

202078日)