2018年10月12日金曜日

逍遥 湯河原・カトマンズ #111


きさらぎの望月のころ

326日 
早朝成田着で帰国。自宅のしだれ桜が満開。この花を見るのも十数年ぶり。

「夕桜七十にして里ごころ」(小林敦子)。

禁酒を前に黒部の銘酒「幻の瀧」をたっぷり飲んで就寝

327日 
長泉町の静岡県がんセンターへ。東名高速脇の丘の上の絶景地、北に愛鷹山、富士山、南に駿河湾と遠くに天城連山。病室足下には病院の散策路に桜が満開。午後1時から内視鏡による胃の腫瘍摘出治療。この病院では手術と言わずに「治療」。寝ている間に何事もなかったかのごとく終了。一年間付き合った腫瘍ともこれでお別れである。点滴のチュ-ブが鬱陶しい。

328日 
午後の内視鏡検査まで水分をとることができない。喉の渇き。検査の結果が良好であるとして水分摂取が許されるが、今度は空腹感が激しくなる。テレビで高校野球を見ても新聞を読んでも集中できない。看護師の許可無くしてトイレに行き叱られる。夜になると若干落ち着いて小室直樹「論理の方法」を睡眠剤の代わりに眠りにつく。

329日 
朝5時に起きてカーテンを開ける。外の景色が清々しい。昼に五分粥とタラのムニエル、トマトのサラダ、ほうれん草とツナの和物、空腹感が満たされるとなんとなく気持ちに余裕が生まれる。活字もすんなりと頭に入るようになる。見舞いの妻と展望室で談笑。こんな夫婦の風景が今まであっただろうか。ドラマのような老夫婦。夜の病院食にはや興味を失う。点滴のチューブもはずれる。

330日 
朝、主治医からあすの退院を告げられる。病院内のコンビニに新聞を買いに行く。隣の人が退院。情報コーナー備え付けのPCで友人や関係先に退院予定をメールする。プロ野球開幕、ジャイアンツは緒戦を落とす。開幕戦ぐらいしゃにむに獲りにいけよ。今年もダメか。三食ともお粥を残す。健康な時でもそれほど多くは食べない。院内を歩いたので疲れたのか早く眠る。

331日 
朝、シャワーを浴びてスッキリする。土曜日につき事務は休みで、支払いは次回来院時という。公営施設は経営に鷹揚である。看護師より妻に食事の指示。近所の人が車で迎えに来てくれる。家のしだれ桜はすっかり葉桜になっている。ソメイヨシノは満開。

「世の中を思えばなべて散る花のわが身をさてもいづちかもせん」(西行、新古今和歌集)

201845日)