2018年10月12日金曜日

逍遥 湯河原・カトマンズ #112


大相撲とチョウパディ

大相撲地方巡業で、市長が土俵上の挨拶中にくも膜下出血で倒れるという事態が発生した。

周囲の人が土俵上でなすすべもないときに、観客の女性看護師が土俵に上がり心臓マッサージを始める。この時「女性は土俵からおりてください」と場内アナウンスがあった。
相撲協会は「人命に関わることゆえアナウンスが不適切であった」と謝罪した。

翌日は別の都市で女性市長が土俵下から挨拶して、「土俵上で挨拶できないのが悔しい」男女差別と非難する。さて、マスメディアはここぞとばかりに協会批判を始める。テレビのワイドショーではワイドショー芸人、弁護士が「人命に関わるときは良しとして、それ以外は否とするのはおかしい」と、わけのわからないことをいう。

土俵の女人禁制の伝統は明治以来とのことという。いろいろな説があるらしい。協会はその場限りの説明しかしていない。どうして「土俵は男の命懸けの場」だと言えないのだろうか。男性しか会員資格を認めなかったゴルフ場が、五輪大会の会場になりたいがために伝統を曲げたという軟弱な例もあったが、他にも男だけの結社があるだろうし、逆に男を排除する女性の集まりもあろう。それぞれに存立理由があるだろうし、それがなぜ他性の権利侵害なのか理解に苦しむ。

大相撲の土俵を神聖視する理由の一つに女性の生理を上げる向きがある。

ヒンズー教同様に「浄不浄」、血が穢れとの観念があるということだろう。ネパールでは「チョウパディ」に色濃く残っている。チョウパディとは、生理期間中の女性は家に入ることができず、離れた仮小屋や家畜小屋で過ごすことを強いられる慣行である。炊事はできず、コメ、乾物、塩のみで過ごす。牛乳、ヨーグルト、バター、肉等の栄養のある食べ物を取ることが禁じられる。

迷信では、生理期間中に、木に触ると実がならなくなる、牛乳を飲むと牛の乳が出なくなる、本を読むとサラスワティ女神(芸術の神)が怒る、男性が触られると病気になる、等々。

この伝統は西部ネパールのカス・グループ(11世紀以降ネパールに移入した山地のヒンズー民族)の間に色濃く残っている。201612月にはチョウパディ中の15歳の女性が狭い小屋で暖をとっていて、一酸化中毒死した事故が報じられた。毛布を使うことは禁じられ、ジュートの敷物のみが認められる。また、同じ年にヘビに噛まれて死んだ事例も。野獣やレイプの危険もあるという。

最高裁は2005年にチョウパディを非合法とし、2017年には法制化され(禁固3ヶ月または罰金3千ルピー)、20188月に施行される。伝統に最も固執しながら政治行政を牛耳るバフン(最上位の僧侶カースト)にしては英断であるが、悪しき慣行を改めるのは法のみでなく、教育がより有効なのではないだろうか。

2018414日)