2018年10月19日金曜日

逍遥 湯河原・カトマンズ #114


椿と馬酔木とお地蔵さん

十国峠に鎌倉幕府三代将軍源実朝の歌碑がある。

「箱根路を わかこえくれは い津のうみや おきの小島に 波乃与る遊」

おきの小島は初島である。この日の相模湾も鎌倉の古と変わることがないであろう春の光の中にあった。十国峠とは、伊豆・駿河・遠江・甲斐・信濃・武蔵・上総・下総・安房・相模の十国を見渡せることから名付けられたという。

峠を15分程下ると日金山東光寺にでる。本尊に源頼朝が建立した延命地蔵菩薩がある。頼朝が旗揚げを期して伊豆、西相模の若手リーダーたちとの謀議の拠点とした伊豆山神社の元宮がこの寺である。日金山には昔から鬼がいるとされ、霊魂が集まる。春秋の彼岸にここに登ると参拝者の中に会いたい人のうしろ姿を見ることが出来ると言い伝えられている。小学生の頃は地元のガキ連で毎年登ったものである。

無住の本堂は20年前に来た時より立派に建て替えられていた。新たな霊園が開かれているが、昔のままの苔むした墓に歴史を偲ぶ。椿や馬酔木の雑木林が鬱蒼としている。花には若干遅れてしまったが、椿の落ちた赤が山道を彩る。苔の緑に映える。

本堂を後に尾根筋を行く。右に下る道が伊豆山からの参拝路で周囲が開けて明るくなる。さらに下って左に下る道が湯河原からの道である。こちらは周囲が鬱蒼としていて参拝路といっても古い道程標が有るばかりの山道だ。この道を行くとあまりに早く終わりすぎるので岩戸山を目指す。箱根笹の間を気持ちよく進む。冬のあいだは我が家の庭に来ていたウグイスが繁殖の季節を迎えて鳴き声を交わしている。

岩戸山の山頂は三角点がなければ見落としてしまいそうだ。休まず通過して山頂下から岩戸神社の小さな岩祠へ向かうことにする。この道から参拝路に合流できたはずである。分岐点をやっと見つけたが道はだいぶ荒れている。諦めて七尾峠への道をとる。いくつかのグループが登ってくる。こんなマイナーなコースでも歩かれるほどの登山ブームなのだろう。

七尾峠には新しい自動車道路が開け、会社の大型保養施設が数多く建てられており、道に迷ってしまう。このまま尾根通しに歩けば海辺の潮音寺までハイキングを楽しめるのだが、あまりの開発ぶりに嫌気が差して自動車道路を下った。

今年の秋の彼岸には、18歳で死んだ息子の後ろ姿を探しに参拝路を登ろうか。

2018510日)